真北測量の重要性とその手法
真北測量とは、地球の自転軸に基づく真の北方向(真北)を正確に求める測量手法です。建築設計や都市計画において重要な役割を果たし、日照条件の計算や建築確認申請に必要となります。
本コラムでは、真北測量の重要性や測定方法、活用事例について詳しく解説します。
Contents
北の種類とその違い
「北」には以下の3種類があり、それぞれ異なる定義と用途があります。
真北(True North)
- 地球の自転軸の北端(北極点)の方向を指します。
- 変動しないため、建築や測量の基準として用いられます。
磁北(Magnetic North)
- 地球の磁場により方位磁針が指す北方向です。
- 磁北は地球の磁気の影響を受け、時間とともに変化します。
- 東京都23区内では磁北偏角(磁北と真北の差)が約7度西にずれています。
方眼北(Grid North)
- 地図上のグリッド線に基づいた北方向です。
- 地図の投影法により真北とは微妙に異なることがあります。
- 東京都23区内は、平面直角座標系の「第IX系」に属し、その原点は千葉県野田市にあります。23区内の各地点は原点の西側に位置するため、方眼北は真北に対してわずかに東側に傾いています。
真北測量の必要性と用途
真北測量は、日影規制の適用や日照条件の評価において不可欠な役割を果たします。特に都市部では、建築物の高さや配置によって生じる影が周囲の建物や住環境に及ぼす影響を慎重に検討する必要があります。
建築物が密集する地域では、日照時間を確保し、周囲の生活環境を損なわない設計を行うために、事前の影響評価と適切な対策が求められます。また、高層建築の設計では、冬季における太陽の低高度を考慮する必要があり、日照条件を正確に把握するための真北測量が不可欠となります。
さらに、日照シミュレーションを活用することで、建築前に影の影響を視覚的に確認し、必要に応じて設計の調整を行うことが可能になります。真北測量と日照シミュレーションを組み合わせることで、法規制を遵守しつつ、快適な住環境の確保が可能となります。
真北測量の主な方法
真北を測定するためには、以下の2つの方法が一般的に用いられます。
太陽観測による測量方法
太陽の位置を観測し、真北を求める方法です。

測定手順
- 観測機器の設置
トータルステーションやトランシットなどの観測機器を測点に正確に設置します。この際、機器が水平で安定していることを確認します。 - 後視点の設定
測点から見える位置に後視ターゲット(プリズムなど)を設置し、これを基準として水平角度を測定します。 - 太陽の観測
トータルステーションに太陽観測用のフィルターを装着し、太陽を観測します。正位置と反位置でそれぞれ太陽を視準し、その時の水平角度と観測時刻を記録します。この作業を複数回行い、精度を高めます。
※このときフィルタを付けずに太陽を直視してしまうと失明のおそれがあるので注意が必要です。 - 観測データの記録
観測手簿に、各回の観測結果(水平角度、観測時刻など)を正確に記録します。 - 真北方向の算出
観測データと理科年表に記載されている視赤緯、均時差の値を用いて、方位角を計算します。これにより、測点における真北方向を特定します。 - 成果物の作成
計算結果を基に、真北測定調書や現況測量図を作成します。
注意点
この方法は、太陽が出ていない曇りや雨の日には測量を行えないという制約がありますが、適切な環境下で実施すれば高い精度で真北を特定できます。
平面直角座標系の値による計算
基準点測量により求められた座標を利用して真北を求める方法です。
測定手順
- 基準点測量を実施
基準点測量により、測量地域周辺の座標値(平面直角座標系のX座標、Y座標)を取得します。 - 真北方向角の確認
取得した各基準点の「真北方向角」を確認します。真北方向角は、平面直角座標系のX軸(座標上の北方向)と実際の真北との間の角度差を示します。 (sokuseikagis1.gsi.go.jp) - 2点間の方向角の計算
2つの基準点の座標値を用いて、平面直角座標系上の方向角を計算します。方向角は、国土地理院の測量計算サイトで計算可能です。 - 方位角の算出
各基準点の真北方向角を用いて、2点間の方位角を算出します。方位角は、次の式で求められます。
真北方位角 = 2点間の方向角 − 真北方向角
この方位角が、実際の真北方向に対する2点間の角度となります。
注意点
- 正確な基準点の座標データが必要です。
- 測量区域に適した座標系を使用する必要があります。
真北測量の成果物とその活用
真北測量の成果物は、建築設計や都市計画の基盤となります。特に日影規制や建築確認申請において、真北方向の正確な測定は不可欠です。
主な成果物
- 観測手簿:観測時の測定値や測定条件を記録した帳票。

- 方位角計算簿:観測データをもとに真北の方位角を算出する計算簿。

- 真北測定調書:測定結果を公式にまとめた報告書。

- 現況測量図:測定結果を図面として表したもの。

これらの資料は、建築確認申請時の重要な資料となります。また、真北測量データは日影シミュレーションに活用され、建築物が周囲に与える影響を事前に予測することで、設計の最適化を支援します。
また、真北測量は太陽光発電システムの設計にも貢献します。建物の屋根や壁面に設置するソーラーパネルの最適な角度を決定する際、正確な真北方向の把握はエネルギー効率の最大化に不可欠です。こうした測量データの活用は、持続可能な都市計画や環境負荷の低減にも寄与します。
まとめ
真北測量は、日影規制の適用や日照条件の評価において不可欠な測量技術です。特に日影の影響を最小限に抑える建築設計のためには、正確な真北測量が求められます。今後も精度の向上や技術の発展により、より正確で効率的な真北測量が期待されます。